令和5年8月9日(水)、東郷町民会館にて、「令和5年度権利擁護支援プロジェクト 高齢者・障害者虐待対応研修会 権利擁護支援ってなに?~本人らしく生きるための意思決定支援とは~」を開催しました。本研修会は今年度計6回の開催を予定しており、今回が2回目の実施になります。

 前回の研修会終了後、本研修会の講師であり当センターの権利擁護アドバイザーを務めていただいている上田晴男先生から助言を受け、研修の内容を一部改良しました。参加いただく方にとって少しでも実践に活きる学びがあってほしいとの思いから、今後も実施回数を重ねるごとに改善していくつもりです。

 さて、今回も前回同様に、まずは個人ワークを経てからグループワークを行い、その後講師である上田晴男先生からの講義をいただきました。グループワークでも参加者の皆さんには活発に議論いただきましたが、今回は時間配分を調整し上田晴男先生の解説の時間を多くいただくことができました。非常に多くの気づきがありましたので、ぜひそのことをお伝えしたいと思います。

1.「権利擁護」と「権利擁護支援」について

 まずはじめに、支援者が護るべき権利とは「①自分のことは自分で決める暮らし(自分らしい生活)」、「②社会的なつながりや関わりをもちながら地域で生活すること(当たり前の暮らし:健康で文化的な社会的価値・役割のある暮らし)」、「③人と関わること(孤立・排除しない、させない、みんなとの生活)」の3つであるとの解説をいただきました。また、「権利擁護」とは、「自分の権利を行使すること」、「権利侵害からの救済・保護(困った状況の改善)」、「新しい権利の創造(意見や要望の具体化)」の3つで構成されており、困った状況に陥った際、「その状況を改善するために自分もしくは他者が社会資源等を活用して対処すること」が「権利擁護」の取組とのことです。

 しかし「権利擁護に支援を必要とする状態」にある人は、そもそも困った状況に陥っていることの発信ができず、自分で助けを求められる状態にありません。上田先生によるとそのような状況にある人は、例えば傍からみると「支援を求めていない」ようにみえたり、支援に時間がかかったり等の特性があるとのことです。このような特性はまさに、皆さんが普段支援する中で支援が進まない、あるいは支援が難しいと感じる方にあてはまるのではないでしょうか。上田先生から、「支援を拒否しているようにみえる人」とは、すべからく権利擁護支援が必要な人であり、そもそも自分の権利をまもることができないため、「自分の権利をまもる」ための取組(=権利擁護支援)が必要であるとのことです。支援がうまくいかない要因のひとつは、そもそも支援者側が当事者の状況をよく理解しておらず、行っている支援のレベルが当事者の状況にかみ合っていないということに気付かされました。

2.権利擁護支援とは

 権利擁護支援の3つの支援軸として、「①意思決定支援(意思形成支援・意思表明支援・意思実現支援)」、「②法的支援(成年後見制度・債務整理・虐待救済・財産管理)」、「③生活支援(福祉サービス利用支援・見守り支援・医療的ケア等)」があるとの解説をいただきました。支援者の皆さんはきっと誰しも、権利擁護支援を必要とされる人が目の前に現れたとき、支援者としてアセスメントして課題を整理し、状況を改善するために本人へ提案するものの受け入れてもらえない、というご経験があると思います。上田先生によると、その課題は支援者が気づいて言っているだけで、本人は全くその気がないから嫌になり受け入れてもらえないとのことです。課題があってもそれを抱えている本人は今日も明日もそこで生きていく、権利擁護支援においては支援者の目線で状況を改善することを目指すよりも「誰のために支援をしているのか(本人は何を考え、何を大事にしたいのか)」が一番大事だとのご指摘がありました。

3.支援がうまくいくには本人と支援者との間に「関係性」が必要

 上田先生の講義の中で強調されていたのがこの部分です。支援がうまくいくかどうかは、本人と支援者との間に基本的な人と人との結びつきができているかどうかにかかっています。上田先生によると本人は支援を拒否しているのではなく、「本人と支援者との間に関係性が成立していない」ということです。支援者自身が本人に受け入れられていないからそのような状況になっているとの解説に、参加者の誰もがはっとされたことと思います。支援が難しい、本人が支援を受け入れないと思っていた状況は、支援者が本人のせいにしていただけで、実は支援者側が本人に受け入れてもらっていない結果だというご指摘は、大変貴重な気づきであったのではないでしょうか。

4.本人と「関係性」をつくるにはどうしたら良いのか

 講義で何度も強調されたように、支援がうまくいくには本人と支援者との間に関係性が必要です。それでは関係性をつくるにはどうしたらいいのでしょうか。ケアマネジャーや相談支援専門員等、支援者自身の社会的な立場役割が支援をするのではありません。関係性を築くために、まずは本人がどういう人なのかを理解する必要があります。そのために、本人の疾患や状態・特性をきちんと調べているか、また本人の人間性を理解するために本人の話をたくさん聞いて、その人の生きてきた歴史や経験・思い・感情を受けとめることができるか、その上で本人は何を大事にし、何が嫌なのかを理解しているか、ということがポイントになるとのことです。さらに本人のもとに足を運び、たくさん話を聴き、コミュニケーションをとってどれだけ本人のことを知り、関わったのかということも重要で、実際の関わりや取組を通して結果的に本人が支援者を信頼し、関係性が築かれていきます。権利擁護支援を必要とする人は、自分で困った状況を説明できない程困難な状態に置かれているため、自分で支援者とつながり関係性を構築することは難しいです。だからこそ、本人と関係性が築けるかどうかは支援者にかかっています。

 参加された皆様にとってはどのような学びがあったでしょうか。上田先生からは、自分たちの支援の内容や支援者のかかわり方を変えることが重要だとのご指摘がありました。それこそが支援を進めるための突破口だと思います。今回の研修で、無意識のうちに本人に原因を求めていた部分があったことに気付き、とても反省しました。このような気づきを積み重ね、センター職員としても地域の支援者の皆様と一緒に支援者としての力量向上に努めたいと思います。

 本研修は今年度同じ内容であと4回実施いたします。支援が難しいと感じているケースを対応している方にこそぜひ受講していただきたい研修です。皆様のご参加お待ちしております。